直接的にクラスター弾とは関係ないが――日本の海岸線は守りやすいか

「日本の長い海岸線」という表現は、日本人の一般常識に依存した意見であり、軍事的な評価とはいえません。大規模上陸に適した海岸線は限られており、北海道でも上陸に適した海岸は数カ所しかありません。それら以外の場所でクラスター爆弾を使う必要はありません。

(略)

不審船程度で北朝鮮海軍に脅威を感じています。北朝鮮には上陸船団を護衛するための戦闘艦も空軍機もほとんどありません。輸送船団を日本に接近させたら、海空自衛隊の攻撃により、すべては日本海に沈んでしまいますし、そもそも輸送船団すらないのです。


Spike's Military Affair Review


2ちゃんねる軍事板の、それも戦車不要論スレッドでよく見る話ですね。

ここで書かれている「上陸に適した海岸」っていうのは、戦車を含む重装備を擁した部隊が一定以上の地積(たとえば北海道全域とか)を永久・半永久的に占領しようとする、いわば冷戦型の上陸作戦を想定しています。その場合は確かに、米軍以外のどの国も自衛隊を向こうに回して、その目的を達成する事は困難でしょう*1


ただし、中迫撃砲対戦車ミサイル重機関銃、携帯対空ミサイル(いわゆるMANPADS)程度に装備を抑えた1000人くらいの部隊(増強1個大隊程度の軽歩兵)が、どこか自衛隊の駐屯していない離島や半島部を3ヶ月程度保持する事を目的にして、奇襲的に攻撃してきたらどうかと考えると、これを完全に防ぐのは難しい。兵士が1日に必要とする物資を50kg、その1000人の100日分として物資5000トン、これに各種装備と兵員1000人を加えても、ありふれた10000総トンの貨客船2隻でどうにかまかなえます。そして大規模侵攻に適した海岸線がなくても、ちょっとした砂浜があれば、モーターランチと貨客船のクレーンでこの部隊は揚陸作戦を実施する事ができます。実際、第2次世界大戦中期までの揚陸作戦は似たようなスタイルで行われていました。


なるほど、現在の海上保安庁海上自衛隊の海洋監視能力は相当のもので、怪しい貨客船2隻を見つけることはそれほど困難ではないと考えられます。そして、海上自衛隊の、航空自衛隊陸上自衛隊の火力の前では2隻の貨客船など、ただの脆弱な的にすぎません。しかしこれが民間船に偽装し、しかも、その離島への攻撃を第1撃とした場合、さて、自衛隊はその火力を発揮できるのかどうか。


これが海上自衛隊航空自衛隊がどれほど強力でも、島国である日本が一定の陸上戦力(と揚陸戦力)を整備しなければらない理由のひとつであり、また、海岸が大規模上陸に適していないからといって、戦争になりにくいとは言い切れない*2理由のひとつです。

*1:もっとも上陸そのものは可能性はある。無理なのは確保しつづけること

*2:それは結局政治の問題である

人道のために自国民を犠牲を増やすのが、専守防衛でありクラスター弾廃止であり地雷廃止、それを認識したうえでの選択なら条約に参加したほうがいい

現状の防衛予算だと代替兵器が近々に装備される可能性はうすい。それでも釣りでもなんでもなくそう思う。


敵国が、まあそれは別にどこの国でもいっそ異星人でもいいのだけれど、敵国内でわが国を攻める準備をしているうちに先制攻撃をするのであれば、基本的に(攻撃に対する迎撃の被害以外)わが国に損害が出ないうちに、わが国への危険を取り除く事が出来る。しかし、先制攻撃は、一歩間違えると、あるいは意図的に、わが国への脅威でない国を、戦争が必要でない状況で攻撃する事がありうる。しかし、専守防衛とすればそのようなことはなくなる。なぜなら、専守防衛とは敵に攻撃されて、つまり敵が引き金を引き1人以上の人が撃たれ傷つくか死ぬかして、あるいはある広さの土地が敵国に占領されてから、暴力を発動させるからだ。もちろん敵の弾が誰もいない土地や海に落ちて、それで暴力が発動されるかもしれないが、基本的にわが国が何らかの損害を受けるのが専守防衛という考え方である。ついでに言うと、敵国に先制攻撃を受けると、イニシアティブも相手のものとなるため、「反撃してすぐに敵を追い出す」という風にはなかなかいきにくい。0対0のスコアからであれば1点取れば相手に勝てるが、0対1からだと2点取らないと相手に勝てないのと一緒である。


つまり、専守防衛とは「必要のない戦争で犠牲を出す可能性>防勢にたつことで増す被害」と見積もったうえでの選択肢であり、「必要のない戦争を防ぐ事が、第一撃を受けて戦災被害を出すことよりも重要でその可能性がある」という価値観である。なお、海外から「日本は無理筋を押してこない」というブランドイメージをも得る事が出来るが、これはまあ、逆にある程度無理を押しても恐くないと思われる部分もあるだろうから、損得どちらを大きく見積もるかは難しい。


対人地雷廃止も、クラスター弾禁止も、このような見積もりがあってなされるのならそれでいいと思う。


ちょっと見積もってみる。日本は専守防衛が国是であるのだから、対人地雷もクラスター弾も、日本国内で侵攻軍に対して使われるものである。そのためこれらを廃止すれば、戦災復興時の障害が減る*1。また、率先して条約を結ぶ事で諸外国から「日本は話のわかった国であり、人道的である」という評判というかブランドイメージを得られる。

失うものはいろいろあるが、もっとも代替がきかないのは敵軍の進行を遅らせる能力であろう*2自衛隊の配備が間に合わない間隙を敵軍が侵攻しようとした際、クラスター弾による瞬間面制圧力、あるいは地雷による拘束力はこの間隙を一時的に埋めうるからだ。両兵器の廃止により、戦域が拡大し、戦災を受ける日本国民が増加する可能性というのは増す。もちろん、さまざまな局面での攻撃効率が落ちる事によって、自衛隊の損害も増すだろう。それはクラスター弾がないことで軽減される戦災復興の障害・被害以上の損害になりかねない。


そんなのは机上の空論だ、戦争が起こり、戦局がそうなる可能性はきわめて低い、とおっしゃる方もいるだろう。それはその通りだと私も思う。しかし、まったくありえない、と言い切れるほど世界は、そして東アジアは平和ではないとも思う。


可能性の、いまだ来たらざる、そして来ないかもしれない戦争での損害と、いま現実にある人道的行動、この両者を比べたとき後者を重視するのはたぶん正しい見積もりで、それは十分に賭けに値する。しかしそれが、いかに鉄板に見えても必然の出来ごとではなく賭けである事。賭けに万分の一にでも外れたときに、もしあれらの兵器が有ったらどうなっていたかを考える事、この二つは必要なんじゃないかと思う。

*1:日米安保が機能していれば間違いなく、機能していなくても国際社会が中立(=日本のシーレーンが敵対国以外に妨害されなければ)であれば最後に勝つのは日本だろうと思う

*2:侵攻軍の水際撃破なんてリップサービスだろう。不可能だ

例によって政府の先走りか!−自衛隊機中国派遣問題

日本政府が中国・四川大地震の被災地への自衛隊機派遣を見送ったが、中国政府は公式には受け入れに慎重姿勢は示していない。外務省の秦剛副報道局長は29日の会見で「関係国と軍が緊急支援物資を提供する意思があるなら歓迎を表明したい」と述べていた。


四川大地震:自衛隊機派遣見送り 世論割れた中国 - 毎日jp(毎日新聞)

石破茂防衛相も「中国の文化や伝統、国民感情、国民性に理解を示さなければいけない。自衛隊機で、と要請があったわけではないが、あらゆる可能性を検討していた」と述べた


自衛隊機派遣見送り、中国軍幹部「理解に感謝」


反発があるなんて分かり切ってたことじゃないかよう。甘過ぎだろ〜

日本海軍はどう海上護衛をすれば良かったか問題

やる夫で学ぶ海上輸送線【働くモノニュース : 人生VIP職人ブログwww】

読んで。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 11:15:30.36 ID:sB5v88Xj0 

   / ̄ ̄\ 
 /   _ノ  \ 
 |    ( ●)(●) 
. |     (__人__)    日本は資源を欲して戦争を始めたはずなのに、占領した後のことを 
  |     ` ⌒´ノ     真剣に考えていなかった。帝国海軍は艦隊決戦だけを存在意義とし 
.  |         }      海上護衛のことは最後まで重要視しなかったんだ。 
.  ヽ        }       海上輸送が途絶える時、それは大日本帝国終焉の時でもあった 
   ヽ     ノ          
   /    く          
   |     \           
    |    |ヽ、二⌒)、  
        \ 

「帝国海軍は艦隊決戦だけを存在意義とし 海上護衛のことは最後まで重要視しなかった」
これなー。よく軍事板で議論になる。

「帝国海軍は、大日本帝国の海上交通線に対し、十分な保護を与えるだけの兵力を整備しなかった」ということであれば、間違っていないんですよね。太平洋戦争の結末がそれを証明しているし。また、「帝国海軍が艦隊決戦を重視し、海上護衛を重要視しなかった」というのも、大筋において正しい。昭和11年の「帝国国防方針」における海上護衛に必要な艦艇は次のように見積もられている*1

常備すべきもの
沿岸配備の駆逐艦20隻、1200トン級海防艦12隻、1500トンないし500トン級海防艦15隻、600トン級水雷艇24隻、駆潜艇16隻


戦時に必要となる兵力
水雷艇56隻、900トン級海防艦および砲艦96隻、1200トン級海防艦24隻、駆潜艇160隻

こういう見積もりがありながら、日本海軍はこの計画を十分満たすほどの護衛用艦艇を建造できなかった。表にしてみよう*2

艦種 「常備すべきもの」 「戦時必要艦艇」 計画合計 開戦前建造艦艇 開戦後建造艦艇 実建造数合計
駆逐艦*3 24 0 24 12*4 0 12
航洋護衛艦*5 27 120 147 6*6 174 180
駆潜艇 16 160 176 30 34 64
水雷艇 24 0 24 12 0 12

そしてかろうじて大量建造できた海防艦も実際必要とされた量には足りなかった。まあ、そもそも上記見積もり自体、中国航路が主で南方航路は従、主敵はソ連太平洋艦隊潜水艦として想定されたものだとか言うしね。ああ、あとこれに一応駆潜特務艇200隻が入りますけれども、実質武装漁船だからな。あれを護衛の柱として数に入れるのはいくらなんでも。近海哨戒艇としては悪くないんですが。


ではどうすれば良かったのか、という話になるとポイントになってくるのが、開戦前に建造できた艦艇の数で、駆潜艇以外全然足りない。逆を言うと、日本海軍は対潜艦艇としての駆潜艇にいかに期待していたかですが、そこはそれとして。「だから、開戦前から護衛艦艇を整備していれば良かったんだ!」って叫ぶ軍オタが多いんですよ。正直俺もそう思っていた時期がありました。けどそう簡単にも行かないわけですよ、主に予算的な面で。続く中国戦役で国家予算はすでにいっぱいいっぱい。新たに艦艇予算をつけるだけの国力は日本にはない。もちろんスクラップアンドビルドで、大和型1隻の予算で海防艦30隻くらいはできるし、駆逐艦一隻で駆潜艇6隻くらい建造できる。


しかし、そうやって正面兵力削って護衛戦力を充実させても、結局資源は日本に届かなくなる可能性が高いのです。なるほど1943年くらいまでは、そこなりに護衛作戦を回すことは出来るかも知れません。しかし、駆逐艦思い切って減らしてしまえば、南東方面での揉み合いがアメリカ勝利で早く終わる可能性が高まるし、主力艦を減らせば減らすほど中部太平洋の制海権をアメリカが握るタイミングが早くなる。んで、西部ニューギニアが落ちるとそっからスラウェシ島あたりまで米爆撃機が飛んでこれて(史実でもB-24が来てる)資源地帯が直接連合国のプレッシャーを受ける事になるし、マリアナが落ちればB-29が機雷撒ける。ニューギニア・中部太平洋が早く落ちればフィリピン進攻も早まるだろうし、フィリピンが占領されてしまえば少々の護衛戦力では対抗できない、空母艦載機・正規水上艦艇による通商破壊が行えてしまう。史実で日本の南方輸送路が完全に途絶したのは、レイテ海戦でフィリピン方面の制海権を失って以降だというのは皆さんご存知の通り。それが早まるわけですよ。しかも、1944年5月からインド洋の英米機動部隊による資源地帯への空襲が、規模が小さいとはいえ始まってるんだよね。


結局のところ、「艦隊決戦もまた海上護衛である」という、時折忘れられがちなセオリーがここでも示されるわけです。「帝国海軍は海上護衛を重視していなかったし、重視したとしても実を伴うだけの戦力は揃えられなかった」っていうのが正しいとこだと思います。みんな国力がないのが悪いのです。


ついでに言うと中国で戦争してなきゃもうちょっと艦艇作れたんだろうけれど、そうなると今度アメリカと、というか連合国と戦争する必要がぐっと薄れて来るんだよなあ。個人的には、あの戦争は起こるべくして起こり負けるべくして負けたのだと思っております。

*1:このコピペも時々軍事板でみる

*2:戦利艇は除いた

*3:DE相当

*4:哨戒艇

*5:砲艦+護衛艦

*6:橋立型+占守型

なるほど、むしろ被災地派遣のほうがよかったのかも―中国自衛隊派遣問題

結局見送りになりましたね。

テントや毛布の提供を求める中国側に対し、自衛隊に対する反発を懸念した日本側が運搬手段について相談すると、中国側は、北京や成都などの空港まで自衛隊機が物資を運搬することを認める意向を示したという。


中国では、インターネット掲示板自衛隊を旧日本軍と結びつけ、派遣に反対する意見が相次ぐなど、強い反発が出ていた。今回の地震ではすでに米国、ロシア、パキスタンの空軍機が被災地向けの援助物資を運んでいるが、中国政府も国内世論の反応を見て、日本の自衛隊機の受け入れは難しいと判断したと見られる。


 北京の日本大使館関係者にも、中国側から「自衛隊が派遣されると国内世論が持たない」という声が寄せられていた。


自衛隊機派遣を見送り、世論配慮の中国側が受け入れ難色 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

一番ありそうな話っていうのは、助けに来てくれるなら誰でもありがたい状態の被災地での「感じ」としては日本機の受け入れが出来そうだったけれども、被災地から遠く、あれこれ考える余裕があってかつ実際に日本機を受け入れる成都や北京あたりの世論が悪い方向で盛り上がりそうだったので止めざるを得なくなったというところだろうか。


ただ、より陰謀論的に深読みをしみてると、もともと中国のどの筋が「派遣OK」を言い出して、「派遣まずい」を言い立てたのがどの筋かが問題になってきそう。普通に考えれば、「まずい」とか「いやだ」とか言い出したのは人民解放軍だろうなと思うわけですが、ええ。

「かわいそう」ってなんだろう

はてなでかわいそうといった学生さんが、たとえばid:Apemanさんやid:Dr-Setonさん、あるいはid:NOV1975さんほど知的に、あるいは感情的に誠実であったかというのは、トリアージにおける葛藤について考えるのと同じくらい考えられないといけないと思った。シートンさんの「ソフィーは姑獲鳥の夢をみるか - シートン俗物記」を読んで思ったのだけれど、「ソフィーにひどい選択を迫る程度の識見しかもてなかったSS軍医かわいそう」っていう文も十分成り立つし、中2病的にそういうこといいたがるやつっていうのは絶対いる。共感の「かわいそう」なのか、悲嘆の「かわいそう」なのか、哀れみの「かわいそう」なのか。どこから発せられた「かわいそう」かによって意味合いがぜんぜん違うだろう。

同じことがたぶん「トリアージ」にも言えて、これはほとんど、広義の「選択」を同じように使われているのだけれど、結果として自己というか、エゴの為の選択と、システムの中で自分が機能として果たすべき選択がごちゃ混ぜになっているので、○○はそんなことする/しないの応酬に近くて・・・。まあなんだ、現状の議論は「かわいそう」と「トリアージ」をバズワードをせんがために成されている気がしてならない。

自衛隊機、中国へ

大前提として、終風翁がなにかで書かれていた、ミャンマーも含め、体制がなんであれ自然災害であんな風に人々が亡くなっていいはずがない、ということを書いておきたい。


さて、自衛隊である。「中国が自衛隊派遣を要請」とネットニュースを一見したときにはおったまげた。いくら大災害でせっぱ詰まっていようと、日の丸つけた迷彩服が闊歩できるほど日中感情って良くないだろって。それが輸送機の派遣と続報を聞いて、あーと思い、海外から中国国内への物資輸送と聞いてさらに得心がいった。

 政府関係者によると、派遣を検討しているのは航空自衛隊小牧基地(愛知県)に配属されているC130輸送機。提供するテントや毛布の数に応じ、複数機の派遣も検討している。中国側との調整が整い次第、できるだけ早い時期に派遣する方針だ。

 中国国内に自衛隊機が入るのは、首相が訪中する際などの政府専用機を除いて例がない。中国側が自衛隊受け入れを容認する背景には、地震による被害が予想以上に大きく外国に頼らざるを得ないとの事情に加え、日中関係の改善や両国間の防衛交流が最近になって活発化していることがあるとみられる。


asahi.com:自衛隊機、中国派遣へ 救援物資を輸送 四川大地震 - 政治


実際のところ、中国の戦術輸送というか、亜幹線くらいのレベルでの航空輸送力ってそれなりで、本来なら諸外国の助けを必要とするほどではない。人民解放軍の輸送機戦力は次くらいだと見積もられている

機種名 搭載量の目安 機数 備考
Y-11/12 1トン級 23
Y-8(An-12) 20トン級 48 航空自衛隊のC-130に匹敵
Y-7(An-24) 6トン級 93
IL-76/78 40トン級 4+

※Global Security他参照

空自の輸送機総勢が C-1(6〜8トンくらいの搭載量)・25機、C-130・15機ということを考えると大まかに感じは掴めるだろう。しかも空自はこの中から米軍支援やイラク派遣にそれなりの数回さなきゃ行けないため、中国国内で継続的活動をしようとしても、出せる数が限定的となる。たぶん中国はそのへんも見越して「みんなが傷つかないで少しずつ実を得るお仕事」を見つけてきたのではないかという気がする。もちろん現場は常に苦労することになるので、空自の人には「お疲れさまです」というほかないのだけれども