日本海軍はどう海上護衛をすれば良かったか問題

やる夫で学ぶ海上輸送線【働くモノニュース : 人生VIP職人ブログwww】

読んで。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/29(木) 11:15:30.36 ID:sB5v88Xj0 

   / ̄ ̄\ 
 /   _ノ  \ 
 |    ( ●)(●) 
. |     (__人__)    日本は資源を欲して戦争を始めたはずなのに、占領した後のことを 
  |     ` ⌒´ノ     真剣に考えていなかった。帝国海軍は艦隊決戦だけを存在意義とし 
.  |         }      海上護衛のことは最後まで重要視しなかったんだ。 
.  ヽ        }       海上輸送が途絶える時、それは大日本帝国終焉の時でもあった 
   ヽ     ノ          
   /    く          
   |     \           
    |    |ヽ、二⌒)、  
        \ 

「帝国海軍は艦隊決戦だけを存在意義とし 海上護衛のことは最後まで重要視しなかった」
これなー。よく軍事板で議論になる。

「帝国海軍は、大日本帝国の海上交通線に対し、十分な保護を与えるだけの兵力を整備しなかった」ということであれば、間違っていないんですよね。太平洋戦争の結末がそれを証明しているし。また、「帝国海軍が艦隊決戦を重視し、海上護衛を重要視しなかった」というのも、大筋において正しい。昭和11年の「帝国国防方針」における海上護衛に必要な艦艇は次のように見積もられている*1

常備すべきもの
沿岸配備の駆逐艦20隻、1200トン級海防艦12隻、1500トンないし500トン級海防艦15隻、600トン級水雷艇24隻、駆潜艇16隻


戦時に必要となる兵力
水雷艇56隻、900トン級海防艦および砲艦96隻、1200トン級海防艦24隻、駆潜艇160隻

こういう見積もりがありながら、日本海軍はこの計画を十分満たすほどの護衛用艦艇を建造できなかった。表にしてみよう*2

艦種 「常備すべきもの」 「戦時必要艦艇」 計画合計 開戦前建造艦艇 開戦後建造艦艇 実建造数合計
駆逐艦*3 24 0 24 12*4 0 12
航洋護衛艦*5 27 120 147 6*6 174 180
駆潜艇 16 160 176 30 34 64
水雷艇 24 0 24 12 0 12

そしてかろうじて大量建造できた海防艦も実際必要とされた量には足りなかった。まあ、そもそも上記見積もり自体、中国航路が主で南方航路は従、主敵はソ連太平洋艦隊潜水艦として想定されたものだとか言うしね。ああ、あとこれに一応駆潜特務艇200隻が入りますけれども、実質武装漁船だからな。あれを護衛の柱として数に入れるのはいくらなんでも。近海哨戒艇としては悪くないんですが。


ではどうすれば良かったのか、という話になるとポイントになってくるのが、開戦前に建造できた艦艇の数で、駆潜艇以外全然足りない。逆を言うと、日本海軍は対潜艦艇としての駆潜艇にいかに期待していたかですが、そこはそれとして。「だから、開戦前から護衛艦艇を整備していれば良かったんだ!」って叫ぶ軍オタが多いんですよ。正直俺もそう思っていた時期がありました。けどそう簡単にも行かないわけですよ、主に予算的な面で。続く中国戦役で国家予算はすでにいっぱいいっぱい。新たに艦艇予算をつけるだけの国力は日本にはない。もちろんスクラップアンドビルドで、大和型1隻の予算で海防艦30隻くらいはできるし、駆逐艦一隻で駆潜艇6隻くらい建造できる。


しかし、そうやって正面兵力削って護衛戦力を充実させても、結局資源は日本に届かなくなる可能性が高いのです。なるほど1943年くらいまでは、そこなりに護衛作戦を回すことは出来るかも知れません。しかし、駆逐艦思い切って減らしてしまえば、南東方面での揉み合いがアメリカ勝利で早く終わる可能性が高まるし、主力艦を減らせば減らすほど中部太平洋の制海権をアメリカが握るタイミングが早くなる。んで、西部ニューギニアが落ちるとそっからスラウェシ島あたりまで米爆撃機が飛んでこれて(史実でもB-24が来てる)資源地帯が直接連合国のプレッシャーを受ける事になるし、マリアナが落ちればB-29が機雷撒ける。ニューギニア・中部太平洋が早く落ちればフィリピン進攻も早まるだろうし、フィリピンが占領されてしまえば少々の護衛戦力では対抗できない、空母艦載機・正規水上艦艇による通商破壊が行えてしまう。史実で日本の南方輸送路が完全に途絶したのは、レイテ海戦でフィリピン方面の制海権を失って以降だというのは皆さんご存知の通り。それが早まるわけですよ。しかも、1944年5月からインド洋の英米機動部隊による資源地帯への空襲が、規模が小さいとはいえ始まってるんだよね。


結局のところ、「艦隊決戦もまた海上護衛である」という、時折忘れられがちなセオリーがここでも示されるわけです。「帝国海軍は海上護衛を重視していなかったし、重視したとしても実を伴うだけの戦力は揃えられなかった」っていうのが正しいとこだと思います。みんな国力がないのが悪いのです。


ついでに言うと中国で戦争してなきゃもうちょっと艦艇作れたんだろうけれど、そうなると今度アメリカと、というか連合国と戦争する必要がぐっと薄れて来るんだよなあ。個人的には、あの戦争は起こるべくして起こり負けるべくして負けたのだと思っております。

*1:このコピペも時々軍事板でみる

*2:戦利艇は除いた

*3:DE相当

*4:哨戒艇

*5:砲艦+護衛艦

*6:橋立型+占守型