見知らぬ海へ (講談社文庫)

なんか違う本探してたらでてきた。
徳川方の城攻めで一族全滅のところを、たまたま、魚釣りに出かけて難を逃れた向井水軍の若殿・向井正綱。彼が向井水軍党を再建し、やがてかつての敵、徳川家の水軍の主力となるまでを描いた隆慶一郎の絶筆。

とか書くとわかりやすっちゃアレなんだなろうけれど、隆慶一郎慣れした人に一言で説明するなら「海のいくさ人の話だよ」ということになるだろうか。白石一郎の『航海者』と比べるとこの作家性の違いがくっきりするように思う。白石一郎の書く三浦按人は(新教徒としての造形もあるだろうけれども)かなりはっきりと近代的自我を持った人物として描かれている。あーでも十時半睡もそうだから、これは白石一郎の作家性かなあ。道徳律が非常に近代的なんだよな。時代小説と伝奇小説の違いなのかも知れない。

水軍・海賊衆というのは隆慶一郎にとって新たな「道々の輩」の分野だったろうから、これが絶筆になってしまったのは非情に残念だ。

見知らぬ海へ (講談社文庫)

見知らぬ海へ (講談社文庫)