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アジアの海の大英帝国―19世紀海洋支配の構図 (講談社学術文庫)

違う本探していたら出てきたので再読。
ごく簡単にまとめると、英国本国と極東(の植民地)との交通路がいかに整備され、どのように「帆船使用/東インド会社の航路独占」の時代が「汽船使用/郵便船会社の台頭」時代へと移り変わったかをメインテーマとした本。
この動きの中で、19世紀中葉に中国のイギリス商人が、いかにイギリス海軍のプレゼンスを求め、それが与えられなかったかがサブテーマ的に描かれている。
不足しがちな英国海軍力の概観から、その不足しがちな海軍力をどう使うかで、本国・インド・中国の各利益団体が自分たちが有利になるよう熾烈なロビー活動を展開するためぐだぐだになりがちな政治状況、その期間の造船技術の進歩まで、「アジアの海の大英帝国」を解説する視点は幅広い。
情報のディティールも面い。例えば1820年前後、イギリス海軍当局が考えていた平時に必要な海軍力が戦列艦100隻、フリゲート艦160隻という数字は示唆に富む。艦艇の機動力が桁違いで、航空機も発達した現代との安易な比較は出来ないものの、水上艦艇が全世界に無理なくプレゼンスを発揮するためにはどれくらいの船体が必要なのか。レーガン政権下の米海軍500隻艦隊構想などを想起せずにはいられない。
また、英国の給炭基地を示した図表も面白かった。
ちなみに、本書の最後には1870年3月1日の『タイムズ』紙の論評が引用されている。近代的戦艦の始祖といわれる英艦デヴァステーションの就役が1872年であることを考え合わせると、著者が本書で取り上げた「19世紀」というタイムスパンがどのようなものかうかがえる気がする。
なお英国以外の極東での動きとして、日本の開国問題と関連してペリーが取り上げられているが、ビドル提督やあるいは他国による日本開国の働きかけが(恐らく紙幅の関係で)割愛されているため、ペリーの働きが突出しているように見えてしまうきらいがある。学術文庫収録に当たって極東での列強の動きについて少し加筆があれば、より充実した書籍になっていただろうと思うとやや残念だ。

偉そうにいうと海系軍オタは一読して損のない良書である。

アジアの海の大英帝国―19世紀海洋支配の構図 (講談社学術文庫)

アジアの海の大英帝国―19世紀海洋支配の構図 (講談社学術文庫)