ファルージャ 栄光なき死闘―アメリカ軍兵士たちの20カ月

アメリカ軍がなんでイラクで苦労しているのかが如実に分かる本。そしてある意味、ガンダム的なものすごい強力なユニットが特定の戦場で勝ち続ける戦争が実際あったらこうなる、というのが分かる本でもある。
描かれているのは、アメリカのファルージャにおける2回の掃討作戦。作戦に至る状況と、ファルージャ市街での戦闘の様子が詳細に描かれている。ここで度々表れるのは、市街地へパトロールに出かけたアメリカ軍の小隊・分隊が、武装勢力に囲まれ応急防御を行なうちに増援部隊(おおむねM-1かM-25を含む)により進撃・撤退が可能になるという展開だ。一度武装勢力を鎮圧したはずの地域でも、これが繰り返される傾向がある。つまり米軍には、市街全体を常に制圧下に置くほどには、兵力がなく、基本的にはもぐら叩き的機動防御で武装勢力が出現した地域に攻撃を加え、状況を管制しようとしているということがうかがえる。確かにアメリカ軍側は装備の火力・防護力・機動力が優れているために、局地的には常に武装勢力を圧倒している。しかしこのことが、戦況を誤断させ、状況をかえって悪くしている面があるのではないか。人口2500万人の国家は15万人そこそこの兵力でどうにかするには大きすぎる。

また市域でないところの状況について以下のような記述がある。

ケネディは市の中心部にパトロール隊を集中配備したくなかった。郊外で武装勢力を勢いづかせることになるからだ。四月六日のの攻撃の時、武装勢力は市の外からやって来た。歴史的に見ても、武装勢力は街の外にいて、次第に中心部の政府部隊を攻めるというパターンが多い。土地が平らなイラクでは、身を隠すジャングルや森がない。その代わりに発達した道路網のおかげで武装勢力は安全な場所に住み、市内随所に武器を隠しておいて、集合場所に来るまで乗り付けると武器を手にして出撃してまた車で去っていく

どうにも日中戦争で都市部とその連絡路(ただし不完全)しか確保できなかった旧日本陸軍と印象が被る。占領統治の基本とは、隅々まで占領軍の権力が及んでいることを、被占領民が実感することだろう。だからこそ日本でも、GHQ憲兵が銀座あたりの交差点で交通整理を行ったわけである。どうもイラクには、占領軍の目の届かない地域がありすぎるようだ。

なお、一部軍事用語の訳に不統一が見られる点や、そもそも各種の車輛や兵器の名称が取り立てて解説のないまま文中に投げ出されているのも気になる。巻末に一定の訳注・解説があってもよかったのではないだろうか。

ファルージャ 栄光なき死闘―アメリカ軍兵士たちの20カ月

ファルージャ 栄光なき死闘―アメリカ軍兵士たちの20カ月