『東京スタディーズ』(吉見俊哉・若林幹夫編著/ISBN:4314009799)

気鋭の学者陣(建築家とか編集者もいる)によるカルスタ的東京案内。田中研之輔によるストリートスケートボーダー論や、石原千秋によるニュータウン現状レポートは、地に足がついた考察で非常に説得力を持つ。また、ポーランド社会学者イリーナ・リフロフスカによる鉄道網概観「トーキョー・トレインズ」は、オリエンタリズムからの視点ではあるものの、東京の鉄道網に対する素朴な驚きが率直に書かれており、東京を見なおすときに有効な補助線となりうると思う。ただ、いくつか決定的に欠けている点もあるようにも感じた。もっとも冒頭で

むろん、ここに収められた文章で現代の都市や社会、東京の“すべて”が語られうるような網羅性を本書はもっていない。

とあらかじめ書かれているので、百も承知の上での編纂なのだろうが。
ひとつは政治都市としての東京についてほとんど触れられていない。9・11以前、あるいはオウム以前でも、この街は堅固に警衛されていた。それは東京が単なる大都市とは違う位相にあるからであり、それがどのように違うのかを示さずに「“セキュリティ”の問題」を取り上げてみても意味はない。
もう一つは、東京の歴史性について1章も割かれていないことだ。これについては、巻末のブックガイドに『私説東京繁盛記』(小林信彦荒木経惟ISBN:4480037225)が載っていない、というのがこの書物のスタンスを表しているかも知れない。『東京スタディーズ』で書かれているのは、高度経済成長期とバブル崩壊後の地価下落によってもたらされた「東京」である。しかし僕には、その「東京」の底流には、小林信彦が執拗に書き続ける「地付き在住者の東京」(それは必ず江戸っ子と=で結ばれるものではない)の怨念のようなものが常にあって、実は東京を根本的なところで規定しているような気がしてならないだけれども。

東京スタディーズ

東京スタディーズ